ミシュラン一つ星、銀座の「うち山」で修業を積み、有名な食通たちの御用達として知られる赤坂の名店「津やま」で花板を5年務めあげたご主人の料理をいただきに、銀座「朱雀」に向かう。お目当てのひとつが、この「焼ごま豆腐」。おまかせコースの先陣を切る一品で、鯛茶漬けと並ぶ名物料理。高名な作家のものと思われる器に、見た目もやわらかな姿がお目見えする。
カリッと表面を焼いたごま豆腐に、わさびをアクセントにしたスタイルは「うち山」の流れか。ごまダレを添えるご主人のアレンジで、濃密な味が際立つ。クリーミーな内側の触感とのギャップは新感覚。やさしいおいしさに、「『日本料理のコース』をいただきに銀座に来ている」という肩ひじ張った気分が、ふっと解きほぐされていくから不思議である。
「この時季のおすすめは」と尋ねると、「直に産地から取寄せる鱧や鮎、山菜ですね」とご主人の山西氏。穏やかな話しぶりが、和の空間にぬくもりを添える。それでいて築地で仕入れる食材や、盛付ひとつに垣間見られる妥協のない仕事は、正統の和食を受け継ぐ板前そのもの。美味しさと楽しさ。そして、この凛とした空間の清々しさがたまらなく心地よい。